(05-016)

魚の棲む城

魚の棲む城

江戸幕府9代将軍家重と10代将軍家治に仕え、300石(本書から。600石という説もある)の貧乏旗本から、遠江相良5万7千石を領とする老中にまで出世した田村意次の大活躍を描いた小説である。いわゆる江戸時代で「田沼時代」とされる時期の話で、私はあまり読んだことは無い。田沼意次といえば、「賄賂政治」「株仲間」「通貨改革」くらいしか印象は残っていなかった。Webでは田村意次の「賄賂政治」はそれほど目に余るものではなく、この本に描かれている様に、むしろ清潔だったという情報が強いように思う。教科書や参考書の類では、彼の業績と失脚についてさらりと述べられているのみである。
本著は作家が女性ということもあってか、若干「色」が強すぎる感があるものの、田沼意次の出世とそれを支える周りの人々が、その生活と共に生き生きと描き出されていて良かった。また主人公が海の外に目を向ける様は、時代背景は全く異なるものの、北方謙三の『武王の門(上) (新潮文庫)』のそれと雰囲気が似ており、なにかしらワクワクとさせられるものだった。
歴史小説は、限られた史実情報を作家がかき集めて解釈し、想像力で肉付けを行なってるものなので、他作家の同時代の作品(池波正太郎の『剣客商売』等)も読んでみたいところである。