(05-006)

初歩から学ぶ生物学 (角川選書 (357))

初歩から学ぶ生物学 (角川選書 (357))

最後まで自己同一性が保たれていると言う側面と、先に述べた外からの指令や命令がなくとも、勝手に成長して勝手に死んでしまうという側面の両方が、「生きている」ことの本質であり、そういった性質を有している空間を、私たちは「生物」と呼んでいるのである。ルールという言葉を使えば、生物は何らかのルールを有しつつ、ルール自体が変化してしまうシステムである。

環境が問題となるのは、人間の存在を考える場合だけである。逆にいえば、人間の存在を考えなければ、環境問題は論じることはできない。

私は生物学を勉強したことはない。せいぜい、中学か高校の理科程度の知識しかない。その僅かな知識さえも、もの凄い勢いで失っている。そんな私も生命のことには興味があるのである。そんな中、本書と出会えた。本書冒頭で、著者の池田清彦教授は「今度こそ、生物学を習ったことがない人でも二日で読めるに違いない」と言っている。残念ながら、通勤時間=読書時間の私は、読破に1週間もかかってしまった。しかしながら、部分的には難しいところもあるものの、簡潔に整理されており、全体としては分かり易かった。
生命とは何かといった点について、じっくり楽しく考えることができたのは収穫だった。また、「なぜオスとメスができたのか」という問題に対する説明には思わず、「なるほど〜」と納得もした。環境問題については、人間の存続がその問題たり得る理由だといった観点に、ハッとさせられた。"自然"とは何ぞや?である。人工的活動も、捉え方によっては自然の一部だと言うことも可能だ。人間の存続に適している現環境を如何に長く保持するか。そもそも、そんなことに意味はあるのだろうか?
それにしても、生命の話とは宇宙について思考を巡らす時と同様に、なんと現生活を小さく見せる話だろうか。これらの話は、現実逃避にもなり得るし、改めて現実に向き合う機会を与えてくれるものでもある。