(05-027)

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば

いつだったか夕暮れの住宅街に入っていくと、家々の庭に競うように植えられた桜が、その瞬間一斉に散り始めたように思えた。枝先で花がほどけて、後から後からゆっくりと落ちてくる。薄闇のなかで、花弁の一枚一枚が青い燐光を放っていた。空間全体が柔らかな落下に充ちて、街はその底に沈んでしんと静かだった。(P.7)

子が親を含め他人に見せるのはほんの一面にしか過ぎないのだろう。親もよほどのことが無い限り、普段とは違う子の一面を目にすることはそう多くないと思う。子が外で友達や恋人と過ごしているのをたまたま目にした時、学校で授業を受けている時にいつもとは違う子の顔を発見することがせいぜいだろう。それがある時、何かのきっかけで子の新しい面を垣間見た時、親は驚き、また、子の成長を感じるものなのかもしれない。願わくば、ゆっくり一つ一つ発見しながら、その成長を喜びたいものである。
本書では、子どもを疑いながらも信じ、信じながらも疑う、母親の哀しい感情がつぶさに表現されている。思春期やその時期に近い子どもを持つ親には読み応えのある一冊だと思う。
上の引用は、心に残った一節。
ところで、こういうの「ホラーサスペンス」って言うのかな?